2014年末に竣工した、埼玉県さいたま市の「桜環境センター」。このセンターは、市内から排出されるごみを処理する熱回収施設、ごみを選別・破砕して資源物を回収するリサイクルセンター、ごみ処理を行う際に発生する熱エネルギーを利用した余熱体験施設(浴場、ウォーキングプール)が併設され、全国的にみても大きな規模を誇る。その中で極東開発工業が担当したリサイクルセンターの設計・建設は、まさにチャレンジの連続だった。
プロジェクトが発足した2010年当時は国が環境事業を見直していた時期で、プラント関連の案件においてもメーカー間による競争が激しくなっていた。そんな状況の中、当社はパートナー企業2社との共同事業というかたちで、入札に挑むことに。入札方式は、設計・建設に加え、15年間の運営を提案するDBO方式。(※DBO方式ー資金調達を公共が負担し、設計・建設、運営を民間に委託する方式。)
まずは営業設計グループが、市から提示された要求水準書に沿って基本設計をつくる。競合相手はコストパフォーマンスを重視する傾向にあったが、当社は自分たちの強みである技術力を打ち出して差別化を図った。受注はむずかしいという声も少なくなかったが、提案した技術が高く評価されて逆転受注。
「営業設計グループが頑張ってくれたので、後を引継ぐ詳細設計グループも気合いが入りました」と言うのは、プロジェクトリーダーの野口。
建設するための図面をつくる詳細設計グループは当初、規模の大きさが課題になると想定していた。小型のプラントであれば受注から竣工まで1年間というスケジュールも珍しくない中、桜環境センターはおよそ5年におよぶスケジュールが組まれていた。
もうひとつ大きな課題だったのが、プラントに求められる水準の高さである。環境負担の少ない「循環型都市」であるさいたま市は、通常よりも高い数値を設定していたのだ。
「きびしい数値でしたが、当社の技術力であれば十分クリアできるという自信はありました」と野口は振り返る。
しかし、ことはそう簡単には進まなかった。
プロジェクトの主要メンバーは、リーダーであり機械設計担当の野口の他、電気担当の前田、現場での調整などを担当する根本、そして工事をまとめる現場所長の加藤の4人。工期が長いこともあり、少数精鋭で取り組む方針を採った。しかし業務量は膨大であるため、効率的に進められるようメンバー、各部署、パートナー企業との連携体制づくりに努めた。
そんな時、市から新たな要望が出たため、設計を練り直す必要が生じた。決められた時間と予算の中で、最初に設定された水準をクリアし、プラスαの要望に応えるのは簡単なことではなかった。メンバーは検討を重ね、運行時の効率アップ、メンテナンスのしやすさなどのメリットを生む提案を行った。
「私たちの仕事は求められている性能を発揮することが大前提で、そこにどれだけ付加価値を提供できるかが勝負なんです。電気関係の設計でも、その姿勢は貫きました」と前田は語る。
構成機器の選定、電源・制御・通信関連の取り決め、建設に対する要望資料の作成、市への変更の提案と交渉など、詳細設計を実施形として固めるまで実に2年の月日を要した。このようにプロフェッショナルに徹したのは、当社のプロジェクトメンバーだけではなかった。市の担当者もまた、筋金入りのプロフェッショナルだったのだ。
詳細設計グループは工事を指揮する加藤と連携し、図面をかたちにしていく段階を迎えていた。しかし、ここでも大きな壁が待ち受けていた。
どのプラント建設でも担当者によるチェックがあり、通常は決められた項目に沿って確認作業が行われる。しかし、この時の担当者は違った。これまで経験したことのないきびしいチェックを行ったのだ。
根本が当時の様子を振り返る。「通常はポイントとなるところの写真を撮って、資料として提出するのですが、この案件では施設すべての写真を撮る必要がありました。月に1万枚くらいは撮影したと思います。そして塗装の厚みなど、どんな小さなことでも気になったところは、なぜそうなっているのか説明しなければなりませんでした」
この確認・調整、資料づくりのために、根本は加藤と共に現場常駐となる。
「最初は大変だなと思いましたが、担当者の「良い施設にしなければならない」という責任感に応えることが、自分たちの使命だと腹をくくりました」と、加藤は話す。
こうしてひとつの目標のために、市の担当者とプロジェクトチームがひとつになって取り組み、2014年8月、リサイクルセンターの試運転にこぎ着ける。が、予想外の問題が発生した。
問題となったのは、ペットボトル・プラスチックの処理ラインだった。当初想定していたごみの内容・量と大きく異なっていたため、設計したラインでは対応できないことが判明したのだ。このままではオープンできない。しかし、技術提案をした当社が何とかしなければならない。しかもタイムリミットは迫っている。何度もプロジェクトに関わるスタッフで話し合うが、答えは出ない。そんな時、「チャレンジしたいことがある」と、一人の男が切り出した。営業設計を担当した課長である。
起死回生。“ひとつのコンベヤを2本に分ける”という課長のアイデアは、課題解決の糸口となった。詳細設計グループがそのアイデアをアレンジして、解決策を見つけ出したのだ。しかしまだ、コストと人手が当初のプランよりかかる問題が残っていた。野口がこのことを当社の部長に報告したところ、「コストと人の問題は何とかするから、プロジェクトチームはリサイクルセンターを完成させることに専念するように」という言葉が返ってきた。
「この言葉のおかげで、もう一度「よし、やってやろうじゃないか!」と、心に火が灯りました」と野口は言う。
いよいよ完成に向けてラストスパート。限られた時間の中で、迅速・的確に作業を進めなければならない状況において、プラントメーカーとして豊富な経験をもつ当社の強みは発揮される。試運転、評価・分析、改良を繰り返し、ついに最後の性能試験に合格。リサイクルセンターを含む桜環境センターは、予定通り竣工。今も順調に操業している。
「月並みかもしれないが、きひしい状況の中で自分たちの力を出し切り、多くの人と信頼関係を築けたことが嬉しい」というのが、メンバーの共通する気持ちだ。そして、今回の経験を次のプロジェクトに活かしたいと考えている。
members
このプロジェクトの特徴は、大規模で長期スパンだったことです。決められた行程をスムーズかつ着実に進めていくために、技術だけでなくメンバーの気持ちを大切にしました。メンバーも期待に応えてくれたことが嬉しかった。今回の経験で、「どんなプラントでも対応できる」という自信ができました。
設計を提案する時は、相手を“説得する”のではなく、“共感・理解していただく”よう心がけました。この姿勢が市の担当の方々やパートナー・協力企業の方々にも伝わり、一体感が生まれました。この時の気持ちを忘れず、これからもプラント設計をしていきたいと考えています。
新人時代にこのプロジェクトに参加して鍛えられました(笑)。2年間現場に常駐して、プラントが完成するまでの工程を自分の目で見るという、貴重な経験ができました。その中で各部署との連携の意味や大切さを理解できたことは、今、設計をするうえで役立っています。
限られた工期の中で、安全に高精度で高品質なものを作る。高い要求の中で数々の困難に立ち向かいながら多くの課題をクリアしていきました。設計と工事が一体となって新しいチャレンジに挑み続けた結果、納得のいく作品を作り上げることが出来ました。